21時5分の東京成田発、イスタンブール発の飛行機に飛び乗るように乗り、スマホを機内モードにすると、途端に世界との繋がりが切れたような気がしました。
周りに人はいるのに、飛び交う言葉は英語でもスペイン語でもない、聞いたことのないトルコ語で、余計に孤独感は増す一方。トランジット時間を5時間と微妙に長い時間を取ってしまったのでやることがない。
そして何故かイスタンブール空港のwifiは繋がらない。おい。
僕に残された手は、一つだけ。
機内持ち込み用のリュックに入れておいた一冊の本を取り出した。
『スマイル!』というタイトルのこの本は、自転車世界一周を成し遂げた小口良平さんの自伝で、その記録と記憶を綴ったものです。
157カ国、155,502kmを8年半かけて周るというチャリダーの僕でも目眩するほどの規模の旅をまとめている。
通常、旅日記というものは主に旅をした人の主観により記され、それはある意味記録だけであり、当事者が思うより読者に伝わりにくいというのが多いと思います。
しかし、この著者は起きた出来事に対して考察がなされ、それが物語が進むにつれて深まっていくため、非常に感情移入しながらまさに彼の旅を[体感]できる。
そして、この本はただの本ではない。
[旅する本]です。
人から人の手に渡り、様々な場所を旅し、また違う人と違う国で読み継がれていく。もちろん、旅人によってルートは変わるため、渡されていく度にこの本は経験を積み、本を超えた[生きた本]となる。
この本を、僕は小口さんから託されました。
旅する本だから旅をさせたほうが良い、
可愛い子には旅をさせろというが、まさに息子を預ける父のような目で見る小口さんから、僕はこの本を確かに受け取りました。
どんな人に渡そうか?
どんな人に渡すべきか?
どんな人なら…この本を大切にしてくれるだろうか?
そんなことを考えながら読んでいると、いつのまにか長かった時間が過ぎ、搭乗ゲートが開きました。
さぁ、一体どんな人に出会えるだろう。