朝六時に目を覚まして外に出てみると,黒かった空がだんだん灰色になり,太陽が出てくるにつれて青色に変わっていくのが分かった.今日は晴れそう.
と感慨にふけりたいのだけど,とても寒い.ここ和歌山県は僕の住む長野からかなり南のほうなのでもっと暖かいと思っていたのだけど,普通に夜は氷点下近くになる.半袖に上着を羽織ればいけるかなと思っていた自分を戒めたい.
今日のコースは近露王子~本宮大社までの25キロほど.昨日が14キロで足がガクガクになっていたのを考えると,かなり厳しい道のりになる.そのため朝は早起きして7時半には宿を出発.
朝陽に照らされて,杉の木が輝いている.
横から光が差し込むので幹の茶色が鮮やかに映り,早朝の誰もいない静寂な林の中を歩けるなんて,なんて贅沢なんでしょう.
そう思いながらトコトコ歩いていると,途中の継桜王子に到着.
ここには樹齢800年の杉が二本生えており,金剛力士像のように鳥居の横に堂々と生えている.その迫力に圧倒されそうになるくらい.
そして,この木たちはその高さのあまり太陽を遮ってしまうため,次第に枝が太陽の方角により伸びるようになるらしい.そうして南にだけ枝が伸びた「一方杉」がいくつか境内にはあり,その生命力の強さを実感した.
継桜王子を後にすると,本格的なのぼりが始まる.本日のコースには大きい峠が三つあり,3回とも上って降りてを繰り返すことになる.なんともタフなルートである。
ちなみに僕のイメージではここ熊野古道はあくまで巡礼道であり,未舗装だとしても石段や木でできた階段等で多少舗装されていると思っていた.ところどころそういう箇所はあるが,実際のところは山道となんら変わりはない.歩くには登山靴にポールを持った,登山スタイルを圧倒的にお勧めしたい.
そんな山あり谷ありのコースだけど,なぜか負の感情が出てこないことに気が付いた.
僕は基本的につらい事や苦しいことは嫌いなので,山登りも実はそんなに好きではない.トレッキングも同様で,疲れるルートをただ歩くだけの日は非常にイライラしてしまう.
この日はそんなこともなく,辛いという感情があまり感じなかった.
というより,辛いと感じるより興味の方が勝っていた.この熊野古道は起伏に富む分,景色が目まぐるしく変わる.山を抜けたと思ったら村に入り,村の外にはすぐ山が広がっている.「疲れた~」と感じる前に「あそこを超えたらどうなるんだろう?」という興味関心の方が単純に上回るのだ。
更には,歩いているとそのスピードで,普段は気づかなかったことに良く気付くようになる.
木を一つ見ても,その剪定具合でどれだけ人の手が入っているかすぐわかるし,道路標識や案内板に至っても迷う要素がないほどに明確に示してくれている.
すれ違う村の人達も,オンシーズンには何千人と相手にするだろうに,次の曲がり角や道案内をニコニコしながらしてくれる.
ここに訪れた人たちが,安心して,そして快適に周れるように,
そしてなるべく自然を傷つけないように厳重に気を使われているのが,痛いほど実感した.
この道は「祈りの道」とも呼ばれるらしい.
江戸時代,熊野古道を参拝することは庶民にとってはとても高価で,どの家族も「一生に一度参拝すること」を夢見ていたそうだ.
大金がかかるため「伊勢講」という組織を形成し,毎年みんなでお金を出し合って,くじで代表を選び,交代でお参りしたのだという.
どれだけの人数の人が祈りながらこの道を歩いたのだろう.
25キロの道を歩き終わり,本宮大社に着くころには日も傾きかかっていた.
満身創痍の状態で神社の前に立ち,2礼をし,2回拍手をする.
そして手を合わせて祈る。
普段は「お金が欲しい」とか「成功したい」とか,煩悩まみれの漠然とした神頼みが多いのだけど,
この日出てきた言葉は「ありがとう」でした.
いつか自分が感謝の気持ちを忘れるようになったら,またここにきっと来たいな.
ぼろぼろの体だけど,ひどく満足感のある道でした.
今日はここまで。
アディオス!!\( ˆoˆ )/
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●ライター:やしまる
理系大学院生、来年3月から大阪に引っ越しします。
大学3年生の夏休みに自転車で日本を縦断、その後大阪-長野間ブルベやバリ島一周を経て、大学院1年時に休学し自転車でアメリカ大陸を縦断。その後アイスランドを経て10カ国約16000kmを走り、帰国後は報告会や展示会を開催し、主に自転車旅で得た経験を伝達しています。プリンづくりが好き。
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