連日満天の星空を見ている為、若干の寝不足気味で起床。とはいえ、ツアーの朝は非常にゆっくりで、お茶やコーヒーを飲みながらゆっくりと頭と体を起こしていく。
よく飲んでいたブルーベリーティーはモンゴルの特産らしく、草原でもよく育つという。
朝ごはんのプレートも彩り豊かで見ていて嬉しくなる。
珍しく少し曇り気味で出発。
これまで道より開けた場所が多いので、駆け足の練習をした。
馬の走る速度には僕の知る限り四段階(並足、早足、駆け足、襲歩)あり、駆け足は2番目に早い歩法になる。
早足は人間でいうジョギング、駆け足はランニング、襲歩はダッシュのような感じで、早くなればなるほど馬の背中は揺れ、お尻を浮かせる必要がある。
このお尻を浮かせる姿勢はいわば空気椅子みたいなものなので、太ももの筋肉がかなり使われて、段々辛くなってくる。
そして我慢できずにお尻を馬の背中に下ろすと……走る衝撃がお尻に直撃し、非常に悲惨なことになる。
僕は普段から自転車やスノーボードなどで足を使う事が多いからそこまで辛くなかったが、普段運動しない人はスクワット等やっておくと良いかもしれない。
途中、遊牧民の方のゲルに立ち寄り馬乳酒を頂く。
お茶飲んでかない?みたいなノリでお酒が出てくるのは面白い文化だが、小学生くらいの子供もごくごく飲んでいるのであまり違和感はない。
僕は初日に胃袋大爆発していた為少しだけにしたが、何も気にせずガブガブ飲んでいたマオ氏もこのあと大爆発していた。
馬乳酒の他に、チーズを作るところも見せてもらった。馬乳は牛乳に比べて酸味を感じることも多く、チーズも通常売られているものよりかなり癖があるが、非常に栄養価が高いそうだ。
昼ごはんを食べたあと、僕達は別行動となる。
ツォクトモンゴル乗馬ツアーではいくつか日程を用意しており、僕達は4泊5日で申し込みをしていた。但し、ツアーの参加者が全て同じ日程ではなく、あらゆる日程を組み合わせながら合流と離散を繰り返していく。
短い間だったが他の参加者と話す機会も非常に多く、そもそもモンゴルに来ている時点で海外旅行に慣れている経験豊富な人が多く、学びの多い時間だった。
専属ガイドのビルゲイさんとも話す機会が多かった。日本に在住経験のある彼は細かいニュアンスの日本語もよく知っており、モンゴル人目線の話を分かりやすく話してくれるので、非常に頼もしい。
彼の話で印象に残っているのは、日本とモンゴルの領地の違いだ。日本にはモンゴルのように何もない広大な草原や隅々まで見える星空はあまり多くない。土地という観点で言うと、どこに行っても人が多く忙しない日本に比べて少し羨ましく思う。
但し、日本には海がある。
海では魚介類の食料資源が取れる他、サーフィン、釣りのようなアクティビティも盛んだし、綺麗な海はそれだけで観光資源にもなり得る。
領海を含めると日本はモンゴルよりも広くなり、面積的も優位になる。海のないモンゴルから見た日本は、僕が思っている以上に魅力的な場所なのかもしれない。
佇むアシモ。
彼ともここでお別れになる。
結局僕に懐くようなことはあまり無く、常にマイペースだった。帰りに別の馬に乗ると、驚くほど乗りやすく、従順で、よく走った。しかしその馬に乗ってると、一筋縄ではいかないアシモが恋しくなってくるから不思議だ。
ツォクトさんの家では、現在100頭ほど馬を飼っている。そのうち、競走馬やまだ躾が済んでおらず乗れない馬を除くと、ツアーに連れて行ける馬は20頭ほどしかいないらしい。
それだけ初心者に乗せても問題ないよう躾をするには、とてつもない時間がかかるのかもしれない。それゆえ、遊牧民と馬の間には、絶対的な信頼顔がある。
遊牧民は馬には名前をつけないという。
それは、日本の動物に対する愛玩的視点ではなく、あくまで自然の一部と見做しているからではないだろうか。遊牧民という大きな群れの中の、馬と人の関係。お互いに個で判別することはないが、長年寄り添い、支え合う。ゆえに名前をつけない。
もしくは、単純に馬が多すぎて名前をつけてられないのかもしれないが。
馬が遊牧民を見る目は、安堵と温和に満ちている。彼らのような関係のあり方を僕は初めて知り、少し羨ましく感じる。
ツアーの最終日は一日目の夜に泊まったツーリストゲルに泊まり、シャワーとベッド、そして冷えたビールを楽しむ事ができる。次の日はそのまま空港まで送ってもらい、僕達は韓国へ向かった。
日本に帰国し、また忙しい生活が戻ってきた。
太陽が昇るのと同じくらいに家を出て、日が沈んでから家に帰る。なんて事ない日常だが、ふとした瞬間に、青々とした草原を気持ちよさそうに駆けているアシモの姿が脳裏によぎる。
まさしく、あれは自由の姿だった。
相方のマオ氏とは、またモンゴルに行きたいね、と話している。その"また"が来るのは、意外と早いのかもしれない。
〜モンゴル乗馬ツアー編終了〜